せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第28回|Cubaseのコンプレッサーの真実(後編)|ビンテージコンプでボーカルに存在感を出す方法

せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第28回|Cubaseのビンテージコンプでボーカルに存在感を出す方法|音色を作る装置の本質

「コンプをかけても声の存在感が出ない」——そう悩んでいませんか?
もしかしたら、デジタルコンプで存在感を出そうとしているのが原因かもしれません。
デジタルコンプは音量を整える道具。存在感を作るのはビンテージコンプの仕事です。
今回はせいいち先生に、ビンテージコンプの本質と、CubaseのVintageCompressorの使い方を教えてもらいました。

前編(デジタルコンプ編)はこちら。

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第27回|Cubaseのコンプレッサーの真実(前編)|「わかった気」から抜け出すデジタルコンプの使い方
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ピッチ補正・タイミング補正の解説はこちら。

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目次

「存在感がない」には2種類ある。あなたはどちら?

前回のデジタルコンプをやってみたんですけど、なんか声の存在感がまだ足りない気がして。
その前にひとつ確認していいかな。
「存在感がない」というとき、どういう状態にしたいの?
本家みたいに声が前に出てくる感じというか……華やかに聴こえてほしいというか。
その「前に出てくる感じ」と「華やか」は実は別の話なんだよ。
🎯 存在感の種類を確認する
派手さ・華やかさが欲しい → ハモリやダブリングなどの演出で解決する問題
歌の底力・押し出し感が欲しい → ビンテージコンプで解決する問題
えっ、全然違う話なんですか?
そう。華やかにしたいならハモリやダブリングを重ねる。
歌の底力が欲しいならビンテージコンプ。
今回は「底力・押し出し感」の話をするよ。

デジタルコンプは「音量の道具」、ビンテージコンプは「音色を作る装置」

コンプの判断ステップについては第17回で詳しく解説しています。

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デジタルコンプとビンテージコンプって、どう違うんですか?
動作は同じなんだよ。スレッショルドを超えた音を小さくする、それだけ。
違うのは回路(方式)だ。
回路が違うと何が変わるんですか?
アナログは音声信号そのものをFETやOPTといった回路に通すから、その際に音色が変わってしまうんだ。
これはアナログ回路の性質上、避けられないこと。
📌 FET・OPTとは
FET(電界効果トランジスタ)とOPT(光学式)は、ビンテージコンプに使われるアナログ回路の方式。それぞれ異なる音色の変化をもたらす。代表的なビンテージコンプである1176はFET方式、LA-2AはOPT方式を採用している。CubaseのVintageCompressorはこうしたアナログ回路の動作をソフトウェアで再現(エミュレート)したプラグインだ。
音色が変わってしまうということは、意図していない変化ということですか?
意図とかそういう話じゃなくて、通せば変わる。それだけのことだよ。
サチュレーション・歪み・アタックやリリースの動作、そういったものが組み合わさって音に押し出し感やパワー感が生まれる。
特に「音色の変化が押し出し感に直結している」という点が大事でね。
特徴的な音・質感は聴感にすごく影響するから、音量を上げなくても前に出てくる感じがするんだよ。
🎙️ 現場エンジニアの視点|デジタルコンプで存在感は作れるか?
デジタルコンプでは音色は作れない。ただし押し出し感や存在感は、音量のコントロールである程度作ることはできる。でも初心者がそれをやろうとすると難しい。だからビンテージコンプを使う——最短で目的が達成されるからだ。

ボーカルEQ・音量バランスの解説はこちら。

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ボーカルへのVintageCompressor適用|インサートに挿してプリセットを試す

ビンテージコンプの本質がわかったところで、実際にCubaseで使ってみましょう。CubaseにはVintageCompressorというビンテージコンプが内蔵されています(Elements・Artist・Pro対応)。

CubaseのビンテージコンプってVintageCompressor 1種類だけなんですか?
内蔵は1種類だけだよ。
インサートから呼び出して、まずプリセットを試してみて。
CubaseのVintageCompressor mk III

CubaseのVintageCompressor mk III。見た目はクラシックなビンテージコンプ機材に似ている。

デジタルコンプと操作が違いますね。スレッショルドのツマミがないですし……。
INPUTを上げていくとコンプが強くかかる仕組みなんだ。
RATIOは2・4・8・20の4種類から選ぶ。
でも最初はパラメーターより先にプリセットを試してみて。
STEP 1|VintageCompressorをインサートに挿す
ボーカルトラックのインサートを開く → Dynamics → VintageCompressorを選択
STEP 2|プリセットを選んで聴き比べる
プリセットメニューからボーカル向けのものを選んで再生してみる。正解を求めなくていい。自分がかっこいいと思ったらそれが正解だ。
STEP 3|OUTPUTで音量を合わせる
VUメーターを−18基準にして0を目指すか、かける前と同じ音量になるよう聴感で合わせる。音量が変わると正しく判断できないため必ず揃える。
STEP 4|RATIOを耳で決める
思いっきり大きいRATIOで潰してから戻していくと変化が判断しやすい。徐々に上げていくより「かかりすぎ」から戻す方が耳で聴き分けやすい。
「かっこよくなったかどうか」だけで判断していいんですか?
それだけでいいよ。
とにかくプリセットを挿してどれが好きか比べてみる。
気づいたら理解できるようになっているから。

「自分の声にどのプリセットが合うかわからない」
その耳の判断、せいいち先生に直接聞いてみてください。
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デジタルコンプとビンテージコンプを両方使う場合の順番

音量のばらつきも気になるし存在感も出したい場合は、両方使うんですか?
その場合は順番が大事だよ。
まずデジタルコンプで音量のばらつきを補正して、その後にVintageCompressorで存在感を出す。
デジタルコンプ+ビンテージコンプの順番
インサートの上のスロット:Compressor(デジタルコンプ)→ 音量のばらつきを整える

インサートの下のスロット:VintageCompressor → 存在感・押し出し感を作る
インサートにCompressorとVintageCompressorを順番に挿した状態

左側のインサートに上からCompressor、VintageCompressorの順で挿さっている。右側にはそれぞれのプラグイン画面が開いている。

先生はいつもこの順番でやっているんですか?
実は私は録音の時点でVintageCompressorをうっすらかけて録音しているんだよ。
だからほとんどデジタルコンプの出番がないんだ。
録音の時点でかけるんですか!なぜですか?
最初から不要なダイナミクスをある程度抑え込むためと、歌い手が気持ちよく歌えるためだよ。
プロの現場ではモニター返しにコンプを入れないことの方が珍しいんだ。
なぜ最初からかけるといいんですか?
圧倒的に音がよくなるんだよ。
あんまり悩まなくていい。
🎙️ 現場エンジニアの視点|掛け録りという選択
アナログ時代、掛け録りはプロの現場では当たり前のことだった。デジタル時代になり「ドライで録って後からかける」が一般的になったが、入力チャンネルのインサートにVintageCompressorを挿して掛け録りすることで、最初から存在感のある音で録ることができる。ミックスで悩む前に、録音の時点で解決してしまうという発想だ。

Cubaseで掛け録りするには、MixConsoleを開き、マイク入力が割り当てられている入力チャンネル(モノラル Inなど)のインサートにVintageCompressorを挿す。設定は−2dB程度のゲインリダクションを目安に、耳で判断しながら調整する。
MixConsoleの入力チャンネルにVintageCompressorを挿した状態

MixConsoleの一番左「モノラル In」のインサートにVintageCompressorを挿すと掛け録りができる。

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ボーカルにもっと追求したい人へ|1176・LA-2Aを試してみる

CubaseのVintageCompressorを使ってみたんですが、もっとよくなりませんか?
Cubase付属のVintageCompressorはボーカルにあまり向いていないんだよ。
使えないわけじゃないけど、体験するための入口として使ってほしい。
では何を使えばいいんですか?
定番は1176とLA-2Aだよ。
無料から有料までたくさんある。
最初からこちらを試してみてもいい。
どれを選べばいいか迷いそうです。
YouTuberがおすすめしていたという理由で選ばなくていいよ。
自分の耳で聴いてかっこいいと思うものを使ってみて。
聴いたことがあるあの音になるはずだから。
📌 1176・LA-2Aとは
どちらもプロの現場で半世紀以上使われてきた定番のビンテージコンプ。1176はFET方式でアタックが速くパワフルな音色、LA-2Aはオプト方式でなめらかで温かみのある音色が特徴。現在は多くのメーカーがプラグインとして無料・有料で販売している。
🎯 ビンテージコンプ選びの順番
① まずCubase付属のVintageCompressorでビンテージコンプを体験する
② 物足りなくなったら1176・LA-2Aの無料プラグインを試してみる
③ 自分の耳でかっこいいと感じたものを使う

よくある質問

Q|ビンテージコンプをかけたのに存在感が出ない場合はどうすればいいですか?
ゲインステージング・プリセットの試し・オケとの音量バランスという前提条件が整っていれば、存在感が出ないということはまずないよ。むしろかけすぎになるくらいだ。出ない場合はまずこれらの前提条件を確認してみて。
Q|デジタルコンプとビンテージコンプ、どちらか一方だけ使うのはだめですか?
問題ないよ。音量のばらつきが少ない素材ならビンテージコンプだけでも十分。逆に存在感より音量の整理が優先の場合はデジタルコンプだけでもいい。どちらを使うかは第17回で紹介した判断ステップで決めてほしい。
Q|VintageCompressorのPUNCHボタンは使いますか?
ボーカルには不要な機能だよ。気にしなくていい。PUNCHはアタックを短く設定した場合でも音源本来のアタック感を保持する機能で、主にドラムなどのパーカッシブな素材向けだ。

📝 第28回(後編)|この記事のまとめ

  • 「存在感がない」には2種類ある。派手さ・華やかさが欲しいならハモリやダブリング。歌の底力・押し出し感が欲しいならビンテージコンプ
  • デジタルコンプは「音量を整える道具」、ビンテージコンプは「音色を作る装置」。動作は同じでも目的が違う
  • アナログ回路(FET・OPTなど)を通ると音色が変わる。その変化が押し出し感・パワー感として聴こえる
  • デジタルコンプでは音色は作れないし、初心者がそれだけで存在感を作ろうとすると難しい。ビンテージコンプは最短で目的が達成される
  • VintageCompressorはインサートに挿してプリセットから試す。正解を求めず、自分がかっこいいと思ったらそれが正解
  • OUTPUTはVUメーターで−18基準の0を目指すか聴感で合わせる。RATIOは思いっきり潰してから戻していくと判断しやすい
  • デジタルコンプと両方使う場合はデジタルコンプ→VintageCompressorの順でインサートに挿す
  • Cubase付属のVintageCompressorはまず体験するための入口。定番の1176・LA-2Aを最初から試してもいい
  • 選ぶ基準は「自分の耳でかっこいいと思うかどうか」だけでいい

「プリセットをいろいろ試したけど、これで合っているかどうかわからない」
その感覚、自分だけで抱え込まなくていい。
せいいち先生に直接音源を聴いてもらえる場所があります。
やさしいDTM道場は無料で参加できます。

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この記事を書いた人

せいいち先生
DTMは、まず手順。
センスや感覚は、その後でいい。
1人でも多くの人と、音楽の世界を歩きたい。
わからないことは何でも聞いてください。
現役30年のプロが、あなたに伴走します。

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