せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第26回|歌ってみたのタイミング補正のやり方|CubaseのAudioWarpを使った手順と判断力の育て方

せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第26回|歌ってみたのタイミング補正のやり方

録音した歌声のタイミングを整える「タイミング補正」。手順通りに操作すれば誰でもできる。でも多くの人がつまずくのは「どこを直してどこを残すか」という判断だ。この記事ではCubase(Pro・Artist)に搭載されているAudioWarpを使った具体的な操作手順と、判断力の育て方を現場歴30年のレコーディングエンジニア、せいいち先生が解き明かす。

📌 AudioWarpとは
CubaseのPro・Artistグレードに搭載されているタイミング補正機能。録音したボーカルなどのオーディオ波形を引き伸ばしたり縮めたりすることで、発音のタイミングを自由に調整できる。Elements・AI・LEグレードには搭載されていないため注意。
目次

タイミング補正とは何か

ピッチ補正(音程の補正)と並んでボーカル編集の基本となるタイミング補正。そもそもどんな作業なのか、せいいち先生に聞いてみた。

せいいち先生!タイミング補正って何をする作業なんですか?
発音のタイミングを補正する作業だよ。
もっと細かく言うと、歌声の「発音のタイミング」を正しい位置に合わせていく作業なんだ。
ピッチ補正と同じくらい大事な作業なんですか?
同じくらい大事だよ。
それどころか、僕はタイミング補正をピッチ補正より先にやるんだ。
え、ピッチより先なんですか!なぜですか?
タイミングが変わると、そこで出すべき正しいピッチ自体が変わることがあるんだよ。
先にタイミングを直してからピッチを見る。この順番が大事なんだ。
タイミングが変わると正しいピッチも変わる…!知らなかったです。

タイミング補正が難しい2つの理由

操作自体は覚えられる。でもせいいち先生は「タイミング補正はとても難しい領域だ」という。その理由を聞いた。

理由1:自分では正しいと思っているから気づきにくい

「なんか気持ち悪い」と感じながらも、原因がタイミングだとわからない。これがタイミング補正の最初の壁だ。

レッスンをやっていると、タイミングがずれていることに気づかずに「なんか気持ち悪い」という生徒さんが非常に多いんだよ。
「気持ち悪い」とは感じるのに、原因がタイミングだってわからないんですか?
そう。自分では正しいと思って歌っているから気づけないんだよ。
だから僕はAudioWarpで本家の波形と生徒さんの波形を並べて、拡大して確認させているよ。
波形を並べると何がわかるんですか?
ずれている箇所が把握できるよ。
耳だけじゃなく目でも確認できるから、初心者にも気づきやすいんだ。
じゃあ本家に合わせれば正解ってことですか?
そこは注意が必要なんだよ。
本家=正義・自分=悪と勘違いしてしまう危険があるんだ。
ピッチのときも話した通り、必ずしも本家が正解とは限らない。
タイミングでも「ズレ=悪」じゃないんですか?
「ずれ」という言い方はよくないな(笑)
「ため」や「突っ込み」は味じゃなくて表現なんだよ。

ここでせいいち先生から大切な視点が出てきた。「ずれ」と「表現」は違うということだ。

「ため」と「突っ込み」ってどういうことですか?
ためはジャストより遅らせて歌うことだよ。
意図的であっても、なんとなくそうなっていても、感情豊かな歌いまわしになるんだ。
突っ込みはタイミングに対して少し早く歌うことで、勢いを表現したりするよ。
📌 ため・突っ込みとは
どちらもタイミングの「表現」であって、修正すべき「ミス」ではない。

ジャスト:グリッドの線ぴったりのタイミングのこと。
ため:ジャストより遅らせて歌う。意図的であっても、なんとなくそうなっていても、感情豊かな歌いまわしになる。
突っ込み:ジャストより少し早く歌う。勢いや疾走感を表現できる。

全部をジャストに直してしまうと、こうした表現も消えてしまう危険がある。
じゃあ全部ジャストに直したらダメなんですか?
ピッチのときと同様、自分の意図に沿わない部分だけを修正するということだよ。
「これは表現か、それとも意図していないズレか」を判断することが大切なんだ。

理由2:一音に3つのタイミングがある

もう一つの難しさは、たった一音の中にも複数のタイミングが存在することだ。

発音には大まかに3つのタイミングがあるんだ。
歌い始め・ピーク・歌い終わり。
「あ」という一音だけでも、この3つを考えないといけないんだよ。
「あ」一音だけで3つも!それって波形と関係してますか?
波形を見たことあるかな?なんか魂に似てるよね(笑)
一番左が歌い始め、膨らんだ頂点がピーク、しぼんで消えそうな部分が歌い終わりだよ。
確かに!波形の形がそのまま3つのタイミングになってるんですね。
どれが一番重要なんですか?
一番わかりやすいのはピークだよ。
BPM設定がしっかりしているとグリッドが使えるから、ピークをどこに合わせるか判断しやすくなる。
📌 グリッドとは
小節や拍を表示した目盛りのようなもの。物差しの目盛りとイメージするとわかりやすい。CubaseのプロジェクトのBPMを正しく設定していると、このグリッドが正確に表示され、タイミング補正の基準として使えるようになる。
でも「ため」や「突っ込み」もあるし、全部グリッドに合わせればいいわけじゃないですよね?
そこが難しいんだよ。
歌い始めをジャストにするか、ピークをジャストにするかの判断も、初心者にはちょっと難しい気がするね。
まずは正解を追い求めるのではなく、直したいところを限定して直していくしかないかな。
🎯 判断のポイント「どこを直してどこを残すか」
タイミング補正で迷ったときの基準はひとつ。「これは自分の意図した表現か、そうでないか」だ。ためや突っ込みは意図した表現なら残す。意図していないタイミングのズレだけを直す。正解はあなたが決めるものだ。

「これは表現か、ズレか」判断に迷ったらせいいち先生に相談しよう。
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タイミング補正が終わったら、次はピッチ補正に進もう。カット・色付けの詳しい手順と、ピッチ補正のやり方は第24回で解説している。

📄 関連記事を参照
せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第24回|ピッチ補正のやり方|CubaseのVariAudioを使った手順と判断力の育て方
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AudioWarpでタイミング補正をする手順

では実際にどうやって作業するのか。せいいち先生に手順を教えてもらった。ピッチ補正とセットで行う作業なので、流れを整理しておこう。

タイミング補正の全体フロー
【準備】修正したい箇所を全部聴いて洗い出し、すべての箇所をカット・色付けしておく

【1箇所目】
① ループ再生・クリックの準備(P・/・C)

② サンプルエディターでAudioWarp→フリーワープON

③ 前後に線を引き、動かしたい部分にも線を引いてドラッグ→ループ再生で耳確認

④ タイミング補正完了 → そのままピッチ補正へ(第24回参照)

【2箇所目以降】①〜④を繰り返す
STEP 1|直したい部分をカットして色をつける
タイミング補正を始める前に、まず曲全体を通して聴き、修正したい箇所を洗い出す。そして洗い出したすべての箇所をカット・色付けしてから、タイミング補正の作業に入る。この手順はピッチ補正(第24回)と共通だ。

カットの操作:
・Windows:Altキーを押しながらカットしたい位置をクリック
・Mac:Optionキーを押しながらカットしたい位置をクリック

カットしたら修正するイベントを右クリックしてカラーパレットから色をつけ、目印にする。
タイミング補正はピッチ補正とセットで行うから、修正したい部分をカットして色付けするところまでは一緒だよ。
第24回で説明した手順を参照してね。
カットするときの注意点はありますか?
必ず直したい部分だけをカットして独立させておいてください。
タイミング調整はイベント全体に影響が及ぶからね。
直したい部分を独立させておかないと、関係ない部分まで動いてしまうよ。
STEP 2|ループ再生とクリックの準備をする
全箇所のカット・色付けが終わったら、1箇所ずつタイミング補正→ピッチ補正の順で作業していく。まず1箇所目の修正に入る前に、聴きながら確認できる環境を整える。

① 直すイベントをクリックしてキーボードの「P」を押す → そのイベントの範囲を選択
② 「/(スラッシュ)」を押す → ループ再生オン
③ 「C」を押す → クリック(メトロノーム)オン

ここまでが準備。準備が整ったら再生ボタンで再生を開始しよう。
STEP 3|サンプルエディターでAudioWarpを開く
STEP 1で色付けしたイベントをダブルクリックするとサンプルエディター画面が開く。画面左のリストから「AudioWarp」を探して、フリーワープボタンをオンにしよう。
AudioWarp→フリーワープボタン→オン、ですね!
そうだよ。これで波形の上をクリックして線が引けるようになるよ。
STEP 4|線を引いてタイミングを調整する
波形の上でクリックすると縦線(|)が引ける。引いた線はどれもドラッグで動かすことができ、ある線をドラッグして動かすと、その線と隣の線の間の波形が伸び縮みする。この仕組みを使ってタイミングを調整する。

操作の流れ:
① 修正したい音の少し前に線を1本引く
② 修正したい音の少し後ろにもう1本引く
③ 動かしたい部分(ピークなど)にも線を引く
④ ③の線をドラッグして、正しいと思う位置に移動させる

ループ再生しながら耳で確認して、最適な位置を探していこう。
前後に線を引いておくことで、変化する範囲をコントロールできるんだ。
僕はループ再生しながら耳で確認して、最適な位置を探していくよ。
なるほど!前後に線を引いておくことで、関係ない部分まで動くのを防げるんですね。
ループ再生しながら確認できるのも便利そうです!
そうだよ。耳で聴きながら「ここだ」という位置を見つけていくんだ。
これを全部の修正箇所で繰り返したら、次はピッチ補正に移るよ。
🎙️ 現場エンジニアの視点
タイミング補正は、まず「原因の切り分け」として行う作業だ。直す必要があると感じる箇所を洗い出したら、タイミングにだけ注目して先に直してしまう。タイミングが固まってからピッチを見る。この順番を守るだけで、作業の精度が大きく上がる。

タイミング補正の判断力はどうやって身につけるか

操作手順は覚えられる。でもタイミング補正の本当の難しさは「どこを直してどこを残すか」という判断だ。その判断力はどうやって育つのか。

「ため」か「意図していないズレ」かって、どうやって判断できるようになるんですか?
レッスンで教えてもらえますか?
判断の基準は教えることができるよ。
でも身につくのは圧倒的な試行回数なんだよ。
じゃあレッスンで学べることって何ですか?
正しい手順と、迷いなく作業できるスキルだよ。
それらを手に入れたうえで自分の判断力を磨いていくんだ。
手順に迷う無駄をなくして、能力向上に最高のタイパを仕掛けることがレッスンの役割なんだよ。
🎯 レッスンで手に入れるもの
判断の基準はレッスンで教えられる。でも判断力そのものは、正しい手順で繰り返すことでしか身につかない。手順に迷いながら試行錯誤するのと、迷いなく繰り返すのとでは、同じ時間でも積み上がるものがまったく違う。レッスンの価値は「迷いをなくすこと」にある。

📝 歌ってみたのタイミング補正|この記事のまとめ

  • AudioWarpはCubase Pro・Artist対応(Elementsは不可)
  • タイミング補正は発音のタイミングを補正する作業。ピッチ補正より先に行う
  • タイミングが変わると、そこで出すべき正しいピッチ自体が変わることがあるため順番が大切
  • 難しい理由①:自分では正しいと思っているから気づきにくい
  • 難しい理由②:「あ」一音にも歌い始め・ピーク・歌い終わりの3つのタイミングがある
  • 「ため」(ジャストより遅らせる表現)・「突っ込み」(ジャストより早く歌う表現)は直すべきズレではなく表現
  • 自分の意図に沿わない部分だけを修正する
  • 全体の流れ:全箇所を聴いて洗い出し・カット・色付け → 1箇所ずつ「タイミング補正→ピッチ補正」を繰り返す
  • タイミング補正の手順:P・/・Cで準備→再生 → 色付けしたイベントをダブルクリック → AudioWarp→フリーワープON → 線を引いてドラッグ・耳で確認
  • 判断の基準はレッスンで学べる。判断力そのものは圧倒的な試行回数で身につく

ピッチ補正のやり方は第24回で詳しく解説しています。タイミング補正と合わせて取り組んでみてください。

📄 関連記事を参照
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この記事を書いた人

せいいち先生
DTMは、まず手順。
センスや感覚は、その後でいい。
1人でも多くの人と、音楽の世界を歩きたい。
わからないことは何でも聞いてください。
現役30年のプロが、あなたに伴走します。

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