せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第24回|ピッチ補正のやり方

せいいち先生とクロちゃんのDTMを斬る 第24回|ピッチ補正のやり方

録音した歌声の音程を整える「ピッチ補正」。手順通りに操作すれば誰でもできる。でも多くの人がつまずくのは「どこを直してどこを残すか」という判断だ。この記事ではCubase(Pro・Artist)に搭載されているVariAudioを使った具体的な操作手順と、判断の難しさを現場歴30年のレコーディングエンジニア、せいいち先生に解説してもらった。

📌 VariAudioとは
CubaseのPro・Artistグレードに搭載されているピッチ補正機能。ボーカルなどモノフォニック(単音)の録音に対して、個々の音のピッチを編集したりタイミングを修正したりできる。Elements・AI・LEグレードには搭載されていないため注意。
目次

VariAudioでピッチ補正を始める前の準備

せいいち先生!VariAudioでピッチ補正をするとき、最初にやることを教えてください!
まず2つ準備してほしいものがあるよ。
ひとつはプロジェクトのBPMを正しく設定すること。これはとても重要なんだ。
もうひとつは正しい音程がわかるもの。歌ってみたの場合は本家音源を用意してね。
BPMってテンポのことですよね。なぜBPMの設定がそんなに重要なんですか?
VariAudioでセグメントをカットするときにBPMが正しいとグリッドに沿って正確にカットできるんだよ。
まずは「きちんと設定すること」を守っておけば大丈夫。
📌 BPM(ビーピーエム)とは
Beats Per Minuteの略。1分間に刻むビートの数でテンポを表す単位。CubaseのプロジェクトのBPMをカラオケ音源のBPMに合わせて設定することが、ピッチ補正作業を正確に行うための重要な前提となる。

ピッチ補正の修正箇所の洗い出し方

準備ができたら次は何をすればいいですか?
まず修正したい箇所を洗い出すよ。
ポイントは「自分の意図に合わない部分を探す」ことなんだ。
本家音源と聴き比べて、音程がずれているところを探す感じですか?
それも正解。ただもう少し広い意味があってね。
本家に合わせたい意図、自分がいいと思うものを作りたい意図、どちらも「意図」だろ?
だから本家とずれていても自分がいいと思うならそのままでもありなんだよ。
大事なのは「自分の意図に合わない部分」を探すことなんだ。
ピッチ補正って「本家に合わせる」だけじゃなくて「自分の意図した音程に合わせる」ものなんですね!
🎯 判断ポイント①「修正する音を決める」
まず曲全体を聴いて「この音は直す、この音は残す」を決める。本家と違っていても自分の表現として残したい音もある。正解はあなたが決めるものだ。どれを修正対象にするかの判断が、ピッチ補正の仕上がりを大きく左右する。

VariAudioでのピッチ補正の手順

修正箇所が決まったら、実際の作業に入るよ。順番に説明するね。
📌 イベントとは
Cubase上でトラックに配置された音声データのかたまりのこと。録音した歌声はトラック上にイベントとして表示される。トラックが「レール」だとすれば、イベントは「レールの上を走る列車」のようなイメージだ。
STEP 1|すべての修正箇所のイベントをカットして色をつける
修正したい音の前後のブレスや空白など、切っても歌声に影響が出ない部分でイベントをカットする。自然なところでカットするのが基本で、範囲が長くなりすぎないよう注意しよう。

例:「私はいつか羽ばたく」という歌詞の「か」の音程を修正したい場合、「いつか」「いつか羽ばたく」「私はいつか羽ばたく」のどの範囲でカットするかを決める。

カットの操作:
・Windows:Altキーを押しながらカットしたい位置をクリック
・Mac:Optionキーを押しながらカットしたい位置をクリック

カットしたら修正するイベントを右クリックしてカラーパレットから色をつけ、目印にする。これをすべての修正箇所で繰り返す。
STEP 2|すべてのカットが終わったらトラックを複製する
すべての修正箇所のカット・色付けが終わったら、トラックを右クリック→「選択したトラックを複製」で複製する。複製されたトラックには名前の末尾に「D」がつくため見分けられる。心配な場合はトラック名を変更しておくとよい。これは、いつでも修正前の状態に戻せるようにするためだよ。複製した方(「D」がついている方)を修正していく。
STEP 3|エディターを開いてVariAudio解析を行う
複製した方の修正箇所のイベントをダブルクリックしてサンプルエディターを開く。画面左側にインスペクターが表示される(基本的に自動で表示される)。インスペクターから「VariAudio」をクリックし、「VariAudioを編集」の右にある「▶」ボタンをクリックすると解析が始まる。解析が完了すると、セグメントと呼ばれる歌を可視化したものが表示される。
📌 セグメントとは
VariAudioが歌声を解析して可視化したもの。理想は1音1セグメント。AIによる解析のため、複数の音がひとつのセグメントにまとめられてしまうことがあり、人による確認と補正が必要。
STEP 4|セグメントを確認・分割する
解析後にその部分を聴き直し、1音1セグメントになっているか確認する。なっていない箇所はセグメントを分割する。

セグメントの分割操作:セグメントの下部に横に走るラインがある。そこにマウスカーソルを持っていくとハサミマークに変わる(場所によっては糊マークに変わり、分割されたセグメントを結合できる)。ハサミマークの状態で分割したい位置をクリックすると分割できる。

BPMが正しく設定されていると、分割する位置がグリッドで揃うため正確に作業できる。
だからBPMの設定が最初に重要だったんですね!
そうだよ。BPMが正しくないと、ここで作業が雑になってしまうんだ。
STEP 5|音程を修正する
対象のセグメントを選択した状態でキーボードの上下矢印キーを押す。

矢印キーの動き:
・上下どちらを押しても、最初は一番近い鍵盤の音(半音単位)に移動する
・以降は半音ずつ上下に移動する

例:CとC#の中間の音だった場合、下矢印を押すとCになる。さらに押すとB、もう一回押すとA#という具合だ。

本家音源と聴き比べながら正しい位置に合わせていく。
🎯 判断ポイント②「どの音程に合わせるか」
実際に音程を修正するとき、「半音上か、このままか」という細かい判断が連続する。本家に合わせるのが基本だが、自分の表現として残したい音もある。正解はあなたが決めるものだ。修正する音を選ぶ判断と、その音をどの音程に合わせるかの判断。この2つの判断の積み重ねがピッチ補正の仕上がりを決める。
STEP 6|全体を聴き直す
STEP3〜5をすべての修正箇所で繰り返したら、全体を通して聴き直す。一部を修正したことで新たに気になる箇所が出ることはよくある。その場合はSTEP1でカット・色付けをしてから(複製は不要)、STEP3〜5を繰り返す。

ピッチ補正で大切な考え方

ここで重要なことをひとつ伝えておくよ。
ピッチが正確だからといって、必ずしもいい歌とは限らないんだ。
慣れてくると直すべき音と残していい音が自然とわかるようになってくるよ。
直しすぎると逆に不自然になったりするんですか?
それは技術の問題でもあるんだけど、1音くらいの上下はほとんど問題にならないよ。
歌い方や切り方などでクオリティが変わるから、全部を完璧に修正しようとしなくていい。
🎙️ 現場エンジニアの視点
ピッチ補正の正解はあなたが決めるものだ。「正確にする」ことが目的ではなく「自分の意図に合わせる」ことが目的。手順通りにやれば操作はできる。でも「直すべき音と残していい音を見極め、自分の正解を決める判断力」は、実践の中でしか育たない。この判断力を育てることがピッチ補正上達の本質だ。

VariAudioの便利な機能:平坦化とピッチクオンタイズ

VariAudioには他にも便利な機能があるよ。テキストで全部説明するのは難しいけど、概要だけ紹介するね。
平坦化ってどういう機能ですか?
わかりやすく言うとビブラートの揺れを少なくする機能だよ。
ビブラートなのか震えなのかわからない場合に使ってみると、いい結果を生むことがあるんだ。
📌 平坦化とは
音程の揺れを少なくする機能。ビブラートのような意図した表現なのか、意図しない震えなのか判断がつかない場合に使うと効果的なことがある。
ピッチクオンタイズはどういうものですか?
コード構成音やスケールノートの一番近いものに自動で合わせてくれる機能だよ。
元の歌が「正解の正解」「正解の失敗」「失敗の失敗」のどれかが明確になるんだ。
ただしゃくりなどの歌の表現も画一化されてしまう危険性があるから注意が必要だよ。
なんか怖い機能ですね…。
逆に言うと、失敗した音程をわかりやすくあぶり出すためにも使えるよ。
使い方次第でとても便利な機能なんだ。
📌 ピッチクオンタイズとは
コード構成音やスケールノートの一番近い音に自動で合わせる機能。元の歌の状態が3つのパターンに分かれる。

正解の正解:もともと正しい音程で、補正後も問題なし
正解の失敗:もう少しで正解だった音程が、自動補正によって逆に外れてしまうパターン
失敗の失敗:もともと外れていた音程で、補正後も問題あり

失敗した音程をあぶり出すためにも使えるが、しゃくりなど歌の個性的な表現も補正されてしまう危険性があるため、使い方に注意が必要。

録音前の宅録環境の整え方については第23回で詳しく解説しています。

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📝 CubaseのVariAudioでピッチ補正のやり方|この記事のまとめ

  • 始める前の準備:プロジェクトのBPMを正しく設定・本家音源を用意する
  • 修正箇所の洗い出し:「自分の意図に合わない部分」を探す
  • イベントをカット(Win:Alt+クリック/Mac:Option+クリック)→色をつける
  • すべてのカットが終わったらトラックを複製(右クリック→「選択したトラックを複製」)→複製した方を修正
  • エディターでVariAudio解析→セグメントを確認・下部のラインにカーソルを当ててハサミマークでクリックすると分割
  • BPMが正しいとセグメント分割時にグリッドで正確に作業できる
  • 矢印キーで音程を移動:上下どちらも最初は一番近い鍵盤の音へ、以降は半音ずつ
  • 全体を通して聴き直し、気になる箇所があれば繰り返す
  • ピッチが正確=いい歌とは限らない。直すべき音と残していい音の見極めが大切
  • ピッチ補正の正解はあなたが決めるものだ。判断力は実践の中でしか育たない

歌ってみたの録音のやり方は第11回で、現場エンジニアの視点から詳しく解説しています。

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この記事を書いた人

せいいち先生
DTMは、まず手順。
センスや感覚は、その後でいい。
1人でも多くの人と、音楽の世界を歩きたい。
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